
橋梁床版の補修と聞くと、床版を補修した後に橋面防水を施工し、その上に舗装を復旧する構成をイメージすることが多いと思います。
しかし、既設橋の構造や地覆・高欄との高さ関係によっては、一般的な構成に戻せない場合があります。
今回は、もともと舗装がなく、コンクリート床版の上を車両が直接走行している橋で、次の構成が設計されていました。
- えぐれた部分を部分的に断面修復する
- 床版全面に直接走行可能な防水工法を施工する
- 防水層の上に舗装を設けず、そのまま車両を走行させる
一見すると特殊な設計ですが、背景には「床版全体を構造補修として扱えないこと」と「既設路面の高さを変えられないこと」という2つの制約がありました。
この記事では、施工前の実例をもとに、この設計が採用された理由を整理します。
※本事例は施工前の検討段階です。施工後の耐久性や効果を示すものではありません。また、補修範囲や構造照査の要否は橋梁ごとに異なるため、個別に設計者・発注者との確認が必要です。
結論|補修方法は劣化範囲だけでは決められない
今回の判断で重要なのは、路面全体が傷んでいるからといって、単純に床版全面を断面修復したり、舗装を追加したりできるとは限らないことです。
補修方法を決める際には、次の条件を同時に確認する必要があります。
- 床版をどこまで構造補修として扱うか
- 構造照査や耐力計算が必要になるか
- 既設路面の高さを変えられるか
- 地覆・高欄の有効高さに影響しないか
- 補修後に必要な防水性と走行性能を確保できるか
今回の設計では、えぐれた部分だけを断面修復し、床版全面を直接走行型の防水層で保護する構成によって、既設構造と路面高さを大きく変えずに必要な性能を確保しています。
今回の橋は床版上を直接車両が走っていた
一般的な道路橋では、コンクリート床版の上に橋面防水を施工し、その上に舗装を設けます。
一方、今回の橋には舗装がなく、コンクリート床版の表面を車両が直接走行していました。
既設路面には凹凸があり、部分的に大きくえぐれている箇所もあります。路面全体の状態を見ると、全面的に補修して平滑にした方が分かりやすいようにも見えます。
しかし、床版全面を断面修復の対象にすると、単なる表面補修ではなく、床版全体の構造補修として扱うことになります。
本件では、全面補修を行う場合には構造照査や耐力計算が必要になるため、えぐれた部分を対象とした部分断面修復が設計されていました。
ここで注意したいのは、「計算ができないから必要な補修を省略する」という考え方ではないことです。
構造補修として扱う範囲、既設床版の状態、業務範囲、予算などを整理し、設計上必要と判断された範囲を補修するという考え方です。
舗装を追加すると地覆・高欄との高さ関係が変わる
床版全面の断面修復が難しければ、既設床版の上に舗装を追加する方法も考えられます。
しかし、舗装を追加すると路面高さが上がります。
橋梁では路面だけでなく、地覆や高欄も既設路面の高さを基準に設置されています。路面だけを高くすると、高欄の有効高さが不足する可能性があり、排水や橋の前後との高さ関係にも影響します。
そのため、舗装を追加するだけでも橋梁全体の納まりを確認しなければなりません。
今回の橋では、地覆と高欄との関係から既設路面の高さを変えられず、一般的な「床版→橋面防水→舗装」という構成にはできませんでした。
補修工事では、補修する部分だけを見るのではなく、周辺構造との高さや納まりまで確認する必要があります。
部分断面修復と直接走行型防水を組み合わせる
今回の設計構成は、次のとおりです。
- えぐれや欠損がある部分を断面修復する
- 下地を整えたうえで床版全面に防水工法を施工する
- 舗装を追加せず、防水層の上を車両が直接走行する
採用されているのは、HI-SPECシール工法(CPタイプ)です。
メーカーの公開仕様では、コンクリート舗装表面に施工でき、防水層の上を自動車が直接走行できる工法とされています。また、下地の凹凸や粗骨材の露出状態に応じて、厚塗り仕様と薄塗り仕様が用意されています。
これはメーカーが公開している製品性能であり、今回の橋での施工結果を示すものではありません。実際の施工では、設計図書、メーカーの施工要領、現場条件を照合して適用します。
参考:HI-SPECシール工法(CPタイプ)|アイゾールテクニカ
この設計を読み解く判断の流れ
今回の設計は、次のように整理できます。
路面全体に凹凸や部分的な欠損がある
↓
床版全面の断面修復を検討する
↓
全面補修では構造照査・耐力計算が必要になる
↓
舗装追加による復旧を検討する
↓
地覆・高欄との関係から路面高さを変更できない
↓
えぐれた部分だけを断面修復する
↓
床版全面に直接走行可能な防水工法を施工する
特殊に見える工法構成でも、構造条件と必要性能を順番に確認すると、設計された理由が見えてきます。
施工前に確認したいポイント
このような構成では、製品名だけを確認して施工を始めるのではなく、断面修復部と防水層を一つの施工系として確認する必要があります。
主な確認項目は次のとおりです。
1.断面修復範囲と深さ
欠損部、脆弱部、浮きの範囲を確認し、設計された補修範囲と実際の床版状態に大きな差がないか確認します。
想定以上の劣化が確認された場合は、施工者判断で補修範囲を広げず、設計者・発注者と協議します。
2.断面修復材と防水材の適合性
断面修復材の養生期間、表面状態、含水状態などが、後から施工する防水材の接着に影響しないか確認します。
材料単体の性能だけでなく、断面修復材と防水工法の組み合わせとして確認することが重要です。
3.床版全面の下地処理
メーカーの公開施工例では、サンダーケレンや高圧洗浄による事前の下地処理が示されています。
既設面の汚れ、脆弱部、付着物などが残っていると、防水層の接着不良につながるため、下地処理後の状態を確認します。
4.端部や排水部の納まり
防水層を全面施工しても、端部、排水部、地覆際などの納まりが不十分であれば、そこから水が浸入する可能性があります。
一般部だけでなく、水の流れと端部処理を施工前に確認します。
5.養生時間と交通開放条件
直接車両が走行する仕上げとなるため、各工程の使用量、施工間隔、養生時間、交通開放条件をメーカーの施工要領で確認します。
必要に応じて、重要工程日にメーカーや専門業者の技術指導を入れることも有効です。
まとめ|一般的な構成に戻すことが正解とは限らない
補修工事では、一般的な構造に戻すことが必ずしも最適とは限りません。
今回の橋では、
- 床版全面を補修すると構造補修としての照査が必要になる
- 舗装を追加すると地覆・高欄との高さ関係が変わる
- 既設路面の高さを維持する必要がある
- 防水性と車両走行性能の両方を確保する必要がある
という条件がありました。
そのため、えぐれた部分を断面修復し、全面に直接走行可能な防水工法を施工する構成が設計されています。
設計図書に見慣れない工法が記載されていたときは、すぐに「一般的な方法と違う」と判断するのではなく、構造照査、既設高さ、周辺構造、必要性能の順に確認することが重要です。

